ストリップ劇場の中はどうなっている?現役ストリッパーに聞く「元気を出す」ためのストリップ鑑賞法

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全国各地にひっそりと残るストリップ劇場。その数は年々減り続け、新しく劇場をつくることは現状なかなかかないません。いま、ストリップ劇場に行ってみたことがある! という人はとても少数派なのではないでしょうか。

そんな、衰退するストリップ業界に1年前にデビューしたのが今回取材した新井見枝香さん。書店員としてもキャリアを築く彼女はストリップの世界にどんな魅力を感じているのでしょうか。なかなかのぞき見ることのできないディープな世界のお話をお聞きしてきました。

小説とはまったく違う世界

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――最初にストリップの世界に触れたきっかけを教えてください。

新井 2018年に、小説家の桜木紫乃さんから誘われてシアター上野に行ったのがきっかけです。桜木さんが書いた小説『裸の華』の主人公のモデルになった相田樹音(あいだ・じゅね)さんを見に行きました。それまでも小説を読んで興味は持っていたんですけど、だからといって見に行くわけでもなく……。

実際のストリップ劇場は、小説の中の世界とは、ぜんぜんつながらなかったです。すごく距離が近いということも、踊り子さんたちの美しさも、演目の完成度やエンタメとしての楽しさも、全部が想像以上で。こんなに次から次と代わる代わるいろんなものを見ることができていいのかな、贅沢すぎるな、と。圧倒されて。びっくりした思い出があります。

そのあと桜木さんは北海道に帰っちゃったので、一人で劇場に通うようになって。

基本的には樹音さんを追いかけていたんですが、樹音さんを目当てに一度見に行くと、ほかにもいる5-6人の出演者の中に、いいなって思う人が必ずいるんですよ。もう1回見たい方が増えていくと、いろいろな劇場に足を運ぶようになり。

 

――その後、ステージに立つようになったきっかけは何ですか?

新井 劇場に通ううちに、樹音さんとも仲良くなって。そこで桜木さんを驚かせようとして、一度ステージに立ってみたんです。そのステージ自体はサプライズの一度きりだったんですが、それをきっかけに1年前に、踊り子としてデビューすることになりました。

 

――ステージに立つようになってから、劇場やストリップへのイメージは変化しましたか?

新井 裏を見たからこそ、客席からは見えていなかった、お姐さんたちの努力とか我慢が見えて、それを知れば知るほど応援したい気持ち、今もお客さんをしたい気持ちがすごくあります。

自分は知識が浅かったので、踊り子になってから知ることがたくさんあって。衣装のお金は全部自分で出していたり。移動も、会社員なら出張に行けばぜんぶ経費で出してもらえる。でも、踊り子たちはみんな劇場から交通費が出るわけでもなく、事情があってお休みをとってもなんの補償もなく。

ストリップは10日間を区切りに毎日ステージがありますが、私が見ている限り、降板する人ってまずいなかったんですよ。でも全員が全員10日間、万全な体調で激しいダンスをしているっていうのは全然当たり前のことではなくて。裏で見ていると体調が悪そうな人がいたり、怪我がまだ治ってなかったりとか。そうだよな、踊り子も人間やなって思うようになりました。

 

――ステージに立つ前は、踊り子さんについて、人間離れしたものとしてとらえていたところがあったんですね。

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見なくてもいい自分を見てくれる人がいる

――ストリップの魅力のひとつに、踊り子さんがやりたいことを演目に大きく取り入れているということがあると思います。デビュー時に作った演目は、どんなことを表現したくて作りましたか?

新井 一番最初はガールズバンドの曲で固めて。私はすごい音楽が好きなんですけど、ミュージシャンにはなれなかったので、ライブみたいなステージができたらいいなって。曲を選んだ上で、歌詞と自分の記憶を混ぜて振りを考えたりしたんですけど、基本的にはみんなが楽しい気持ちになるような演目をと思って作りました。

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――踊り子として初めてステージに立った時、どんな気分でしたか?

新井 デビュー前に練習していた時はスタジオを借りるという発想もなく、狭い自宅でなんとなくこんな感じかな〜って踊っていたのが、デビューした芦原ミュージックという劇場はめちゃめちゃステージが広くて。ステージに螺旋階段があって、2階席もあって。考えていたのと全然違う広さなんで戸惑ったりもしつつ、楽しく踊りました。

見てくれる人が結構いて、そのことが感慨深かったです。自分は何者でもなくて、自分の体の価値も低いと思っていたのに、私を見にきたんじゃないにしろ、お客さんは席を立たずにいるんだってことにすごい「おぉぉ」っていう感じがしました。おもしろかったですね。

 

――おもしろい気持ちは今も続いてますか?

新井 続いています。私は新人で、どんな劇場でもお客さんの99,9%は私目当てではないので、見なくてもいいわけですよ。入場料を一度払えば出入りができるから、私の出番の時間、外でお茶してきてもいい。でも見てるし、踊ってたら拍手をしたり、終わった後に今の演目よかったですねと言ってポラ写真を撮りに来てくれたり。その人は自分の写真なんて欲しいわけないんですよ。でもその一言を言うために来て、500円払ってるんだって思うと、全ての行動に感謝しかないなと。ありがたいですね。

 

――お客さんの中には、裸以外を見に来てる人も多いですよね。踊り子さん自身にも、やらされてる感じがある人が全然いないですし。

新井 ストリップの世界にはプロデューサーもいないし、演目は自分で作るから、どうやってもすごい個性が際立つ。

お客さんも、あの人は曲を聴きに来てる人だよねっていうのもいるし、あの人はダンスを見に来てるよねとか、あの人は本当裸しか見ないよねとか。正解はいろいろっていう感じで。

 

――そういう意味でもお客様とのコミュニケーションはストリップの魅力だなと思います。お客様から影響を受けたことや、印象的なコミュニケーションはありますか?

新井 最近言われたのは、選曲のことで。私は好きな音楽が多いので、こだわりすぎていて、みんなが知ってる曲が演目に一曲も入ってないってことがあって。有名な曲が嫌いなわけではなくて、たまたまそうなったんだけど、有名な曲を意識的に入れた方がみんなも喜ぶんじゃない? と言われて。もうちょっと前だったらえーって思ったかもしれないけど、今は、たしかにそういうところもあるかもしれないなって。自分もお客さんとしてよく聞いていて耳馴染みのいい曲ってやっぱり気持ちよく手拍子も打てるし。

手拍子を打ちたくて来てる人もいるので。しっとりセクシーに踊ったあとに、みんなが知ってる曲が流れると、知ってる知ってる!って盛り上がる。あの幸せ空間を作るのも我々の役目かなと。

劇場に貢献するための試行錯誤

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――踊り子を続けて1周年が近づいた今、変化したところはありますか?

新井 好きなことばっかりやってきたけど、商売なので、そろそろ劇場に貢献していかなきゃなって思っていて。お客様の求める曲とか衣装とかをもっとリサーチして、お客さんをいっぱい呼べるような人になるべく試行錯誤しています。

デビューが私より少し早いお姐さんが、試行錯誤して少しずつステージが良くなると、明らかにファンが増えていきました。そんな風に地味な努力を重ねて「応援したい」と思ってくれたら素敵だなと思います。

――その変化は、将来的にもショーを続けていくためにという意味も持っていますか?

新井 今は昔みたいに行列ができて劇場にお客さんが入りきらないとか、そういう時代じゃないので。自分は書店員として、お店の採算をとるためにどうするか? という仕事もしていたので、今日は全然黒字じゃないなとかわかるんです。

お客さんからもらうお金と、従業員を雇ったり家賃をいくら払っているかとかを考えると、黒字にはなかなかならない。そういうのを私は関係ないですみたいな顔をしてやりたいことだけやるのも違うと思うんですよ。かといって、自分を犠牲にするのも嫌っていうのが難しいところですよね。

 

――せっかく15分あるステージの中で、全然やりたくないことをやるのも違いますもんね。

新井 ほとんどの踊り子さんは自分の演目が好きで、自分のステージを大事にしている。なぁなぁでやってる人とか、失敗してもヘラヘラしてる人はいないので。

仕事ってものを割り切ってお金だけのためにやってる人はいると思うけど、私の知る限り踊り子をお金のためだけにやってる人はいなくて。みんなやりたいこととかストリップ業界のこととかを考えている。会社だったら手を抜く人とかいるじゃないですか。でもそういう人は本当にいなくて、みんな真剣。

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――この記事をきっかけにストリップに興味を持った方にぜひ伝えたい魅力があれば、教えてください。

新井 私はストリップが大流行して、メジャーなエンタメスポットになって欲しいと思っているわけではないんです。でもなにか悩んだり、気持ちが晴れなかったりとかしたときに来てみてほしいなって。

テレビや雑誌で見るキラキラした同世代の人ががんばっているのを見て、それによって自分はあんな特別な存在になれないんだと思うくらいに弱ってしまうときってあると思うんです。でも劇場に来ると、女性なら同じ性別の踊り子さんたちがスポットライトを浴びて、必死に踊ってるんだけど、不完全というか未完成な、洗練されきっていない魅力が間近に見えるので。

大きな会場のアイドルのライブだと、目があったというのは思い込みかもしれないけど、ストリップ劇場で目があったと思ったら100%あっている。自分が見ているっていうことを、ステージに立つ人が知っていて、たとえばウィンクされたりしたら、自分がいることによってその人が見せるものが変わる。自分のちっぽけさみたいなものが、そうでもなく思える。っていう気持ちのアップのために使って欲しいです。あとはもう、こんなところに来ちゃってる、っていう自分を面白がって。

 

――みんなが行ったことがないところに行っていること自体を楽しんで。

新井 ちょっとした仕事の後の秘密として、みんなはお家帰ってテレビドラマ見てるかもしれないけど、私は最終回のシアター上野行って、こんなディープな世界を味わってきたよっていう喜びもある。

女の子一人で行って嫌な思いをしたりとか、怖い思いをしたりするのかなっていう心配はあると思うけど、全員が劇場の中の治安を守ろうとしてるので。万が一変な人がいても、絶対誰か見ているし。そういう意味では最も安全な夜の盛り場だなって感じはしますよね。ぎりぎりグレーの世界なので、これからも続くようにってみんなが思っている場所ですね。

出演情報

新井さんは2/21(日)〜2/28(日)、シアター上野に出演予定!1周年記念グッズをプレゼントします!

新井見枝香

独自の文学賞「新井賞」を作った現役書店員。エッセイや書評を連載し『本屋の新井』(講談社)など3冊の著作がある作家。ストリッパー1年生。かき氷好き。 Twitter: @honya_arai

 

文・写真/秒刊SUNDAY編集部